演劇企画『ことばがひらかれるとき』についてのインタビュー
東大スタタリング代表のいんこと言います。よろしくお願いします。
駒場祭の『文三劇場』のイベントとして、上演する『ことばがひらかれるとき』という演目です。11月27日の14時30分~15時30分に、駒場小空間で上演します。チケット無料・カンパ制です。ぜひ、みなさん、観に来てください。
僕たちの団体は、劇団ではなく、『東大スタタリング』という吃音を持つ学生の自助グループ(当事者団体)です。普段は、当事者研究会という活動をメインに行っています。
当事者研究というのは、障害や生きづらさを抱えている当事者の人たちが、自分自身の困りごとについて、仲間と対話しながら「研究していく」営みのことです。もともとは統合失調症のグループで始まった営みですが、現在では、発達障害や脳性麻痺など、障害の垣根を越えて様々なグループに広まり、主に福祉の世界で注目を集めています。オープン・ダイアローグとも共通性のある手法と言われています。
僕たちのグループでは、これまで、「話し言葉の地図と吃音の関係」などをテーマにして、当事者研究会を行ってきました。「人格と吃音の関係」や「演技と吃音の関係」など、これまであまり専門家の人たちが論じてこなかった内容についての知見も蓄積しつつあります。研究内容の一部は、今年の日本吃音・流暢性学会で発表し、吃音を研究する専門家の方からも、注目してもらえました。
今回、僕たちの団体が演劇をすることにはいくつかの目的があります。一つ目の狙いは、吃音者が抱える生きづらさの内容を一般の人たちに知ってもらうことです。このことは、当事者団体として、丁寧に描かないといけないな、と思っています。
「吃ること」というと簡単ですが、吃音者が具体的にどういった場面でどんな困難を体験するのか、社会的な困難から、心理的な困難まで、できるだけ丁寧に具体的に描こうと思っています。
また、一般的な専門書に書かれている内容だけではなく、我々の当事者研究会でわかってきた、これまであまり言語化されてこなかった新しい内容についても、描写しています。今回の劇の台本そのものが、吃音について記述した文献として、今までにはない価値を含んだものとなっているはずです。
もう一つには、「演技と吃音の関係」というテーマがあります。吃音者は伝統的に竹内敏晴さんという演出家の方と演劇を通じた取り組みを行ってきた歴史がありますが、竹内さんがお亡くなりになってから、現在その流れが途絶えています。また、別の流れですが、国内最大の自助グループ・言友会が運営する劇団『夢言大』も、現在では活動を停止しています。
今回、吃音演劇を復活させることで、これまで吃音者たちが歩んできた、演劇を通じて吃音と向き合う流れをもう一度、作りたいな、という狙いがありました。稽古も、『演技の最中何を感じていたのか、何を意識していたのか、その時、吃音やからだの状態はどうであったか』などについて話し合いながら、行っています。
三つ目の狙いは、演劇を通じた『対話』です。今回のタイトル『ことばがひらかれるとき』は、もともと、竹内敏晴さんの著書『ことばが劈かれるとき』からいただいたものです。元々の本での『ことばが劈かれるとき』とは、「からだごと他者に関わるために、自分のからだから声が生まれる奇跡のような瞬間」のことを指していますが、今回このタイトルが意味するのは、「対話がはじまるとき」のことです。
今年2016年は、障害者差別解消法、という合理的配慮という考えに基づいた新しい法律が施行された年です。これは、行政や事業主との個別的な対話に基づいて、過剰な負担にならない範囲で、障害者を取り巻くバリアを解消していきましょう、という法律です。こうした背景から、『対話』をモチーフにした吃音演劇を作りたいと考えていました。
今回の演劇企画そのものが、『吃音者が一般の人に向けて表現する』という『対話』的な企画です。また、劇そのものも対話劇で、吃音者たちが、意見のずれを擦り合わせていく場面が描かれます。そしてさらに、そこで話されるテーマそのものも、『対話の難しさ』です。つまり、対話について吃音者同士が対話しながら、舞台と客席間で対話する、という構造をとっています。
毎日新聞の記事はこちら
演劇企画『ことばがひらかれるとき』インタビュー記事
自己紹介をお願いします。
東大スタタリング代表のいんこと言います。よろしくお願いします。
企画の概要について教えてください。
駒場祭の『文三劇場』のイベントとして、上演する『ことばがひらかれるとき』という演目です。11月27日の14時30分~15時30分に、駒場小空間で上演します。チケット無料・カンパ制です。ぜひ、みなさん、観に来てください。
団体について教えてください。
僕たちの団体は、劇団ではなく、『東大スタタリング』という吃音を持つ学生の自助グループ(当事者団体)です。普段は、当事者研究会という活動をメインに行っています。
当事者研究というのは、障害や生きづらさを抱えている当事者の人たちが、自分自身の困りごとについて、仲間と対話しながら「研究していく」営みのことです。もともとは統合失調症のグループで始まった営みですが、現在では、発達障害や脳性麻痺など、障害の垣根を越えて様々なグループに広まり、主に福祉の世界で注目を集めています。オープン・ダイアローグとも共通性のある手法と言われています。
僕たちのグループでは、これまで、「話し言葉の地図と吃音の関係」などをテーマにして、当事者研究会を行ってきました。「人格と吃音の関係」や「演技と吃音の関係」など、これまであまり専門家の人たちが論じてこなかった内容についての知見も蓄積しつつあります。研究内容の一部は、今年の日本吃音・流暢性学会で発表し、吃音を研究する専門家の方からも、注目してもらえました。
今回の企画をどうして演劇でやろうと思ったですか。
今回、僕たちの団体が演劇をすることにはいくつかの目的があります。一つ目の狙いは、吃音者が抱える生きづらさの内容を一般の人たちに知ってもらうことです。このことは、当事者団体として、丁寧に描かないといけないな、と思っています。
「吃ること」というと簡単ですが、吃音者が具体的にどういった場面でどんな困難を体験するのか、社会的な困難から、心理的な困難まで、できるだけ丁寧に具体的に描こうと思っています。
また、一般的な専門書に書かれている内容だけではなく、我々の当事者研究会でわかってきた、これまであまり言語化されてこなかった新しい内容についても、描写しています。今回の劇の台本そのものが、吃音について記述した文献として、今までにはない価値を含んだものとなっているはずです。
もう一つには、「演技と吃音の関係」というテーマがあります。吃音者は伝統的に竹内敏晴さんという演出家の方と演劇を通じた取り組みを行ってきた歴史がありますが、竹内さんがお亡くなりになってから、現在その流れが途絶えています。また、別の流れですが、国内最大の自助グループ・言友会が運営する劇団『夢言大』も、現在では活動を停止しています。
今回、吃音演劇を復活させることで、これまで吃音者たちが歩んできた、演劇を通じて吃音と向き合う流れをもう一度、作りたいな、という狙いがありました。稽古も、『演技の最中何を感じていたのか、何を意識していたのか、その時、吃音やからだの状態はどうであったか』などについて話し合いながら、行っています。
三つ目の狙いは、演劇を通じた『対話』です。今回のタイトル『ことばがひらかれるとき』は、もともと、竹内敏晴さんの著書『ことばが劈かれるとき』からいただいたものです。元々の本での『ことばが劈かれるとき』とは、「からだごと他者に関わるために、自分のからだから声が生まれる奇跡のような瞬間」のことを指していますが、今回このタイトルが意味するのは、「対話がはじまるとき」のことです。
今年2016年は、障害者差別解消法、という合理的配慮という考えに基づいた新しい法律が施行された年です。これは、行政や事業主との個別的な対話に基づいて、過剰な負担にならない範囲で、障害者を取り巻くバリアを解消していきましょう、という法律です。こうした背景から、『対話』をモチーフにした吃音演劇を作りたいと考えていました。
今回の演劇企画そのものが、『吃音者が一般の人に向けて表現する』という『対話』的な企画です。また、劇そのものも対話劇で、吃音者たちが、意見のずれを擦り合わせていく場面が描かれます。そしてさらに、そこで話されるテーマそのものも、『対話の難しさ』です。つまり、対話について吃音者同士が対話しながら、舞台と客席間で対話する、という構造をとっています。